bluegrasswise ブログ

日本列島とほぼ同じ緯度にあるアパラチア山脈、どことなくその人情も日本人に通じる 南部アパラチアの田舎から生まれたオーガニックでエコなアコースティック音楽(共鳴 /共生)、そして1960年代以降のヒッピー文化を含むカウンターカルチャーとの出会い で自由な個々人の感性を尊重する非マウス音楽として人知れず世代を越えて広まりつつあるブルーグラス(bluegrass)にかかわる(wise)ブログです。

パンチ・ブラザーズ来日特集 MOONSHINER/Autumn 2016

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パンチ・ブラザーズ衝撃!!

 8月初頭の3日間、ブルーノート東京に連夜出演していたパンチ・ブラザーズの最終日、5日に出かけました。すでに多くの友人やリスナーから興奮した調子のメイルが届いていましたが、それにしてもステージに出てきた時の、マイルズ・ディヴィスがあの世から帰ってきたのかと思うようなすごい歓声にはびっくりしました。

 アクースティックなストリング・バンド、しかもかなり難しい音楽を展開しているグループなので、どんなライヴになるか予想できない部分もありましたが、全く心配ご無用でした。録音物とライヴは別の存在として意識している彼らは一本のマイクを囲みながら、絶妙な感覚でそれぞれのメンバーがマイクに近づいたり離れたりし、複雑な曲でも勢いと視覚的な要素で難なく伝えます。各メンバーの技術もずば抜けているし、終始クールな姿を一切崩さないノーム・ピケルニーとロック・スター並のジェスチャーを多く使うクリス・シーリのコントラストもまた面白い。

 演奏曲目は毎回かなり変えていたそうです。ぼくが見た回は最新作からの曲ももっと古い曲もありましたが、ダントツ会場が沸いたのはやはりトラディショナルなブルーグラスでした。本人たちは日本のファンの反応にびっくりして、非常に気を良くしていたし、すでに次の来日を楽しみにしている様子でした。

 因みに、ぼくはクリス、ノーム、ゲイブの3人にインタヴューをしましたが、その原稿は次号のEris(オンラインで無料で読めます)に掲載されます。発行は9月8日になる予定です。(http://erismedia.jp/

 

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f:id:bluegrasswise:20181011203110p:plain わたしのパンチブラザーズとの旅人生の中で、今回はとくに大好きな旅行になりました。食べ物は本当に素晴らしく、これまでの人生で食べた最高の寿司とラーメンを経験できました!すべてが、間違いなくグレートでした。われわれが会うことのできた誰もがとてもフレンドリーで、ファンから、ブルーノートのスタッフから、また東京で日中に探索したときに出会ったランダムな人々からの歓迎と思いやりを表してくれました。とても気に入り、そして来年も戻って来ることができればいいのですが! ―――クリス・エルドリッジ(Chris Eldridge)

 

 

 

 

 パンチブラザーズの東京公演が「えらいこと」になっているという。ジャズクラブの名門、ブルーノート東京で連続三日間6公演が大評判、ソールドアウトも連発した1500人にも及ぼうかという観客動員は、おそらく1968年のフラット&スクラッグスと1973年のビル・モンロー初来日以来の快挙ではないだろうか!? 矢野顕子がパンチの追っかけをカミングアウトしたからなのか?メディアやセレブたちが押し寄せたたことも大きいだろうが、本誌読者をはじめ、日本ブルーグラスの皆さんのサポートこそ、今回の来日とその大成功に限りなく大きかった功績だと思う。

 ブルーノート東京の公式ブログの初日リポートで、雑誌「ジャズ批評」の元編集長で音楽評論家の原田和典氏は、「曲が終わるたびに超満員の観客から猛烈な歓声と拍手がわき、ジョークを交えたMCでは笑いが起こり、最後はスタンディング・オヴェイションです。中心人物のクリス・シーリーが『なんてアメイジングなオーディエンスなんだ』と喜んでいましたが、これほど気合の入ったプレイをたっぷり聴かされたら、熱狂するしかないでしょう。(中略)ステージにはアンプひとつなく、マイクも1本だけ。そのマイクを囲むようにして5人が集まり、絶妙な弦の重なりを観客に届けます。各人がマスター級の技量を持ち、アンサンブルもアドリブもリズムも抜群」とそのブルーグラスの王道アンサンブルを称え、ビル・モンローからCSN&Yばりのコーラスハーモニーやアグレッシブなマンドリンチョップにジェイムズ・ブラウン・バンドのジミー・ノーレンのファンキーさを重ね、アパラチアントラッドとドビュッシー室内楽の共存に驚嘆している。そして、「年末あたりには、おそらく今年最高の洋楽系ギグのひとつとして語られるのではないでしょうか」と結んでいる。
http://www.bluenote.co.jp/jp/reports/2016/08/04/punch-brothers.htmlより)

 現在のクラシックをも含む米国音楽界で最高の才能の一人とされるクリス・シーリが率いる史上最高のストリングバンド、彼らがわれわれのブルーグラスコミュニティー育ちのミュージシャンであるということを誇りに思う。

 折から第45回記念 宝塚ブルーグラスフェスを主宰する身にとって、8月3日から5日というブルーノート東京のパンチ公演を観に行くことはできなかった。くやしい思いをしていると、友人でもあるノーム・ピケルニーが宝塚フェスに来たいという。契約の関係で事前告知はできなかったものの個人として参加、友情出演ですばらしいソロライブも聴かせてくれた。そんなノームからのメッセージです。 (渡辺三郎)

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ブルーノート東京と宝塚フェス

ノーム・ピケルニー(Noam Pikelny)

 わたしはまだ、日本で過ごした時間にドキドキしています。それは、わたしの人生におけるもっとも忘れ難い経験と冒険の一つとなりました。

 パンチのブルーノート滞在は多くの理由で特別なものとなりました。明らかなことは、われわれには日本での演奏経験がなく、さらに三日間をかけて一つの会場で6回のショウをするという前例もありませんでした。それに似たような経験はたった一度だけ、10年以上前にありました。まだ、パンチブラザーズという名前ができるずっと前、バンドが始動しはじめた頃、ステーションインでテンションマウンテンボーイズと名乗って、三夜連続のライブをやったことがあります。

 われわれの東京公演は、そんな初期のいい思い出を思い起こさせてくれました。われわれは出来るだけ異なったセットを組むように心がけました。そのことは、ここ何年も演奏することのなかった曲を引き出してくるという、思いがけない機会を与えてくれました。それは意図的ではなかったものの、われわれ初のレトロ(懐古的)演奏と呼ぶのににもっとも近いものでした。

 ブルーノート東京の観衆は素晴らしかった。われわれは1400以上という入場者数にも非常に驚きましたが、それ以上に重要な、観客の皆さんがとても暖かく受け入れてくれたことに、非常に感動しました。信じられないことに、遠くからやって来て、6回のすべてのショウを観た人たちもいました。この11年間、われわれのバンドは安定しながらますます成長し続けているので、時々、全体を観ることをせずに自分たちを見失うことがままあります。東京のステージ上から、一杯の観客席を見渡したとき、何人かの方がわれわれの曲に合わせて口を動かしているのが見えました。それはとても感動的で、われわれのバンドとしても大切なことを再確認させられました。

 われわれの東京公演が、偶然にも宝塚フェスの週末と重なることに初めて気付いたとき、わたしはチョッと残念に思いました。わたしは、毎年恒例のフェス計画のため、何人かの人がブルーノートに来れないのではないかと気づかいました。そしてわたし自身、ほんの数日のことでフェスを逃してしまうことに苦しみました。しかし、多くのブルーグラスファンが両方のイベントをともに楽しめることを、そしてわたしはオーストラリアに向かう直前にフェスに回り道できることをカレンダー上に発見したとき、とても安心しました。

 ブルーノートでの演奏が終わったあと毎夜、楽屋からホテルに向かうバンに歩いて行く合間、そこには何人かの人が、「宝塚で会いましょう!」と言うために、待っている人がいました。ほんと、信じられませんでした!

 わたしは今も、宝塚フェスへの思いを募らせていたことを認めなければなりません。車が山の中へ入って行くにしたがって、それが特別なものになることを確信しはじめました。わたしは、子供の頃にビーンブロッサムやフロンティアランチに向かっているときと同じ予感と興奮に包まれて行ったのです。もう10年以上も会っていなかったタローのタバコを買うために、山に上りはじめた所にある宝塚のセブンイレブンに立ち寄りました。わたしは駐車場からの景色を写真に収めなければなりません。わたしはゆい子に、「ここは全世界でもっとも美しいセブンイレブンの駐車場だ!」と叫ばずにはおれませんでした。

 フェスでは皆さん、とても親切にしてくれ、そこに居られることをとても誇りに感じました。わたしは、尋常じゃない数のバンドがそこにいること、またその才能のレベル、とくにバンジョー奏者のそれに大変感動させられました。また、そこには何人かの燃え盛るような若者がおり、そして彼らがいかに独創的なプレイヤーで新風を吹き込んでいるかを聴き取ることができました。彼らがある特定のスタイルに取りつかれているとは思えないものでした。

 わたしの唯一の後悔は、フェスで過ごす時間が短かったことでした。わたしは、たしかに6回連続の東京公演で疲れていましたし、翌朝早く、関西空港からオーストラリア行の飛行機に乗るため、夜遅くに会場を去らねばなりません。

 サブさんと一緒にバンジョーワークショップの会場に行くために階段を登るとき、わたしは通常のバンジョーのゲージやフィンガーピックなどについて話し合っているワークショップだとばかり思っていました。なんてことでしょう!それは大間違いでした。驚くなかれ、何ということか! 宮本 有さんはわたしの"Road to Columbus"をすべてタブ譜に写し取り、それを一音ずつクラスで教えているではありませんか! わたしはとても幸運なことに近年、(バンジョー奏者として)少しは認められていますが、宝塚の山の中で、部屋一杯のバンジョー奏者たちが"Road to Columbus"のわたしのソロに取り組んでいるのを目撃したこと、これにはとても感動しました。わたしはこれまで、これほどまでに光栄だと感じたことはありません。

 わたしは常に、ブルーグラスコミュニティの一員であることを誇りにしており、この旅行がさらにその思いをより深めて行くことを本当に証明してくれました。55人のバンジョー奏者とともに、ステージで"Foggy Mountain Breakdown"を弾いたのはとても楽しいものでした。後日、サブさんがそのイベント(バンジョー数珠繋ぎ=表2写真参照)には「Deep Foggy(濃ー霧)」と名付けられていたことを説明してくれ、ことの意義深さにさらに驚きました。なんて美しい伝統なんでしょう!わたしは心からもう一度その(Banjo Juzu)一員になりたいと願っています。
 わたしを歓迎してくれた皆さんに、心の底からの感謝を申し上げます。 (完)

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ノーム、鳩正宗と共演する

文/伊藤創平(最澄

 

 8月6日、宝塚ブルーグラスフェスの土曜日、鳩正宗のステージでノーム・ピケルニーと共演させていただきました。これまでノームと交流があったわけでもないわたしたち、鳩正宗が共演するに至った、その発端は大学の先輩・小野泰平さんからの「ええこと思いついたんやけど……」という提案でした。

 小野さん曰く、鳩正宗が持ち曲にしているザ・バンドのカバー“Ophelia ” をノームと一緒にステージで弾いたらどうか。ノーム本人が良ければとサブさんの許可はすでにもらっているとのこと鳩正宗と、左から小林繁之(bj)、伊藤創平(md)、岸部功太郎(gt)、ノーム、小野健児(fd)、小野悠子(bs)なのです。確かにノームがパンチブラザーズで“Ophelia ” を演奏しているのは知っていました。ザ・バンドの原曲の雰囲気をブルーグラス楽器で見事に再現していました。一方わたしたちは、ギブソンブラザーズによってブルーグラスアレンジされたバージョンを参考にして演奏していました。当然一緒に演奏できたら嬉しいけれども、バージョンも違うし、そもそもいきなりお願いしてやってもらえるのだろうかと思っていました。

 しばらくすると、小野さんがいつの間にかノームからの承諾ももらっていてくれていました。「“Ophelia ” を一緒にステージでやって欲しい。ギブソンブラザーズのバージョンだけど……。とお願いしたらOKだったよ」、とのことでした。そんな経緯で共演できることになったのです。その後、わたしたちからも改めて直接ノームに共演のお願いと感謝を伝え、バンド練習をしたいとお願いしたところ、快く応じてくれました。

 間近で見るノームのバンジョーにまず感動しました。ハイポジションを多用した独特のスタイルに、バンジョーとは思えないほど軽やかで美しい音でした。最初は全体のバランスを見てか控えめなバックアップでしたが、鳩正宗フィドルの小野健児さんが、「みんな見たいだろうから、もっと弾いて!」とお願いしました。2回の練習を終えて、本番を迎えました。

 わたしたちが3回聴いたノームの演奏は、それぞれどれも素晴らしかったのですが、やはり本番のソロは一層聴きごたえがあって、構成も綺麗にまとめられていました。わずかな時間でアイデアを磨き上げて、本番で一番の演奏をする、第一線で活躍するプロの力を垣間見ました。ノームは歌っているわたしや、ソロを弾く人の方をじっと見ながら演奏していました。あっという間でしたが夢のような時間でした。

 2016年、パンチブラザーズの来日は、かつてのビル・モンローやサム・ブッシュ、デビッド・グリスマンの来日のように、日本のブルーグラスにおけるエポックメーキングな出来事として語られるのだろうと思います。

今回、このような貴重な機会を作っていだたき、サブさん、小野泰平さん、そしてノーム・ピケルニーには改めて感謝申し上げます。どうもありがとうございました!
■鳩正宗メンバーコメント
小林繁
 アメリカに行った際は遠くから見ているだけだったノームと同じステージに上がれてとても感動しました。バンジョー2台でステージに上がったこともあって、私の拙いバッキングを注視しながらも合わせて弾くノームの姿が印象的でした。
●岸部功太郎
 まさか人生でノームと一緒に演奏する機会があるとは思いませんでした。ずっとYoutubeで見ていた憧れの人だったので、とても嬉しいです。このような機会を作っていただき、ありがとうございました!
●小野健児
ノームはとても上手でした。また一緒に演奏したいです(^^)
●小野悠子
 演奏中のノームの真剣な眼差しが印象的でした!!いっしょにバン練もできて感激でした☆☆
バンド名は難しくて覚えてもらえませんでした……。英語名にしとけばよかった!

■鳩正宗プロファイル
神戸大学ブルーグラスサークルで2009年頃結成、メンバー交替を経て現在まで神戸を中心に全国のブルーグラスフェスなどで活動しているブルーグラスバンド。毎月第三土曜日の20:30から、神戸三宮ホンキートンクでライブ中。ノーム承認の“Ophelia ” youtubeは「Hato with Noam Pikelny」で検索。
https://www.facebook.com/hatomasamune/


Hato with Noam Pikelny 鳩正宗